新しいアルコールの酸化法
New Oxidation of Primary & Secondary Alcohols

 第1級アルコールをアルデヒドに,第2級アルコールをケトンに酸化する反応は,有機合成上極めて重要な反応の一つとして挙げられています。これまでに,Jones試薬,Sarett試薬,Collins試薬など酸化クロムを利用する酸化剤やDMSOを活性化してアルコールと反応させ,アルデヒドあるいはケトンに導く方法が報告されています。中でもDMSOをオキサリルジクロリドで活性化する方法はSwern酸化と呼ばれ,最も実用的な酸化法の一つとして広く利用されています。しかしながら,Swern酸化はDMSOとオキサリルジクロリドの活性中間体が熱的に不安定なため,反応温度の厳密な制御が必要とされます。また,副生するジメチルスルフィドが強い悪臭のため,大量合成には不向きとされています。

 近年,向山らはN-tert-ブチルベンゼンスルフィンイミドイルクロリド1を用いるアルコールの酸化法を報告しています1)。それによれば,1は活性化したDMSOと類似構造を有しており,塩基の存在下,第1級あるいは第2級アルコールを温和な条件でほぼ定量的にアルデヒド,ケトンに酸化しています。

 1は活性化といった処理を必要とせず直接アルコールと反応し,対応したカルボニル化合物を与えます。1を用いた酸化法はSwern酸化のような反応温度の厳密な制御も必要なく室温で使用可能です。そして,この反応は塩基性条件下で進行するため,酸に不安定な化合物にも適用可能です。

 一方,触媒的にアルコールをアルデヒドまたはケトンに酸化する手法も盛んに研究されています。これまでに,テトラプロピルアンモニウムペルルテナート(TPAP)や2,2,6,6-テトラメチルピペリジン 1-オキシル(TEMPO)を触媒として用いる酸化法が報告され,汎用されています。向山らが報告したN-tert-ブチルベンゼンスルフェンアミド2を用いるアルコール酸化法もそうした触媒的酸化法の一つです2)。共酸化剤としてN-クロロスクシンイミド(NCS)などが利用でき,厳密な温度管理を必要せず,第1級あるいは第2級アルコールからそれぞれ対応したアルデヒドおよびケトンがほぼ定量的に得られます。この2を用いる方法は安全かつ簡便なアルコール類の触媒的酸化法といえます。

 また,俣野らは超原子価ビスマス化合物を用いるアルコールの酸化法を開発しています3)。この反応は下記のように進行し,高収率で目的とするカルボニル化合物を与えます。

 反応性は極めて高く,室温下,短時間で反応は完結します。俣野らは,Dess-Martin試薬と超原子価ビスマス化合物3のアリールアルコール,ベンジルアルコールに対する反応性を比較しています。

 それによれば,3はDess-Martin試薬よりアリールアルコール,ベンジルアルコールに高い選択性を持つことが示されています。3は高い反応性を有し,爆発性や毒性のない選択的な酸化剤として注目されています。
 近年,香月らは可視光の照射により活性化され,第1級アルコールのみをアルデヒドに酸化する方法を報告しています。嵩高いサレン配位子とニトロシルを有するルテニウム錯体を触媒として用いることで1-デカノールから1-デカナールを得ています4)

C1944 C1944 B2240 B2240 B2188 B2188
T1957 T1957 T2507 T2507 T1837 T1837
T1956 T1956 T2038 T2038
C1944 Chloronitrosyl[N,N'-bis(3,5-di-tert-butylsalicylidene)-1,1,2,2-tetramethylethylenediaminato]ruthenium(IV)
B2240 N-tert-Butylbenzenesulfenamide
B2188 N-tert-Butylbenzenesulfinimidoyl Chloride [Oxidizing Reagent]
T1957 Tri-o-tolylbismuth Dichloride
T2507 Triphenyl-2,6-xylylbismuthonium Tetrafluoroborate
T1837 Triphenylbismuth Dichloride
T1956 Tris(2-methoxyphenyl)bismuth Dichloride
T2038 Tris(4-trifluoromethylphenyl)bismuth Dichloride

文献

1) T. Mukaiyama, J. Matsuo, M. Yanagisawa, Chem. Lett., 2000, 1072 [DOI]; T. Mukaiyama, J. Matsuo, H. Kitagawa, Chem. Lett., 2000, 1250 [DOI]; J. Matsuo, H. Kitagawa, D. Iida, T. Mukaiyama, Chem. Lett., 2001, 150 [DOI]; J. Matsuo, D. Iida, K. Tatani, T. Mukaiyama, Bull. Chem. Soc. Jpn., 2002, 75, 223 [DOI]; 太原研二,有機合成化学協会誌, 2002, 60, 708; 東京化成工業(株), 特開2002-37753.
2) T. Mukaiyama, J. Matsuo, D. Iida, H. Kitagawa, Chem. Lett., 2001, 846 [DOI]; J. Matsuo, D. Iida, H. Yamanaka, T. Mukaiyama, Tetrahedron, 2003, 59, 6739 [DOI]; 東京化成工業(株), 特開2002-026627.
3) Y. Matano, H. Nomura, Angew. Chem. Int. Ed., 2002, 41, 3028 [DOI]; 東京化成工業(株),特開2003-113130; 東京化成工業(株),特開2005-023052.
4) A. Miyata, M. Murakami, R. Irie, T. Katsuki, Tetrahedron Lett., 2001, 42, 7067 [DOI].


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